①まず業務アセスメントから
業務アセスメント
現状や実態を評価し、改善すべき点を発見していくことがアセスメントである。そこで何の現状・実態を評価するのかということが問題となる。最初から「経営品質アセスメント基準」を用いて経営全体を包括的に評価できればいいのだが、それは簡単ではない。経営品質のアセスメント基準は卓越した組織が自己評価するのにも耐えうるようにできているから、初めての企業には敷居が高い。
リーダーシップが機能しているかどうかを評価しようとしても、そもそもリーダーシップとは何かを掘り下げて考えたことがなければ、評価のしようがない。戦略をどうつくっているかを見直そうとしても、収益基準、競争優位基準、独自能力基準などの戦略思考を知らなければ、見直しようがない。
では最初は何を対象に評価すればよいのだろうか。それは社員にとって最も身近なところである。第一線の社員が日々勤しんでいるのは業務である。業務とは販売や購買といったものだが、これは作業に分解できる。作業は動作に、動作は同素へと分解していけば、どんどん単純化される。単純化されるということは機械化しやすくなるということだから、誰にでも分かりやすいということでもある。単純作業というように、作業レベルのことは慣れてしまえば、頭を使わずにできる。これならば、第一線社員でもわかる。その作業を通じて関係している業務についてならば誰でも考えることができるし、話し合うこともできる。
QCD
業務遂行上のテーマは、QCD(品質、コスト、納期)や効率化である。QCDや効率化を阻害することは何か、と検討していくと作業標準がきちんと行われていないことがわかる。オフィス、工場、倉庫、店舗などが整理されておらず、乱雑になっているとQCDも効率も損なわれることがわかる。
自分勝手なやり方をしている人、約束通りにやらない人が出ると、業務手順が乱され、効率が低下する。非熟練者が担当しているパートで品質不良になれば他が全滅してしまうことがわかる。時間当たり5個ずつの工程で、頑張って6個作ってしまう人がいると、後工程はあせらされるし、在庫や仕掛品が増えてしまうことがわかる。時間のかかる工程を短縮化せずに、短時間の簡単な作業をいくら短くしても何の効果もないことがわかる。
業務アセスメントのテーマは効率、規律、整頓である。より高度な管理や戦略のアセスメントになるとテーマがプロセスの成果や目標となるが、最初から成果、目標を考えるのは難しい。評価の範囲も最初は部門内の狭い範囲だけでよい。部門横断で広範なプロセスを評価するのは、アセスメントにかなり慣れてきてからである。全社員が集合する朝礼での唱和、社員総出の大掃除などが中小企業で盛んだが、この目的も業務レベルの効率化にある。
②言葉と表現のアセスメント
言葉の定義
中小企業だけでなく、そこそこの大企業のアセスメント記述でも、「顧客理解を深めている」とか「顧客との関係強化」などという表現が出てくることが多い。こういう表現では、顧客の理解とは何を意味するのか、理解できているというのはどういうことを指すのか皆目わからない。こういう企業には、「言葉を定義」すること、「表現を明快」にすることが求められる。つまり組織内の「表現アセスメント」が必要なのである。
5S活動ひとつとっても、整理とは「いらないものを捨てること」、整頓とは「いつでも誰でも使える状態にすること」と定義していなければ実践されない。「それなりに片付いている」、「まぁ、きれいになっている」という我流が横行する。我流を許してしまえば、結局は何でもいいことになってしまう。清潔ならば例えばディズニーランドのパークの地面のように、「赤ん坊が寝そべっても、ホコリひとつつかない」と具体的に定義しなければ、ゴミが落ちていても、「こんなもんでいいだろう」がまかり通ってしまう。
「うちは指示待ち人間ばかり」などと嘆く管理職に「貴社では指示をどう定義しているのか?」と尋ねると「指示は指示でしょう」と答えられない。指示とは「目的、内容、方法を明らかにすること」と定義しておけば、「おい例の件、いつでもいいから頼むよ」などというのは指示の要件を満たしていないことになる。部下が指示待ちなのではなくて、そもそも上司が指示できていないのである。
あいまい表現
言葉の定義をしていないような組織では、会議や打ち合わせで使われる言葉もあいまいで漠然としている。「おおかたできています」「複雑で難しいんです」「そう簡単ではありません」などのあいまい表現をされても、どういう事実なのかわからないので、検討のしようがない。「人手が足りないので無理です」という表現だと単なる言い訳に聞こえるが、「一つ作成するのに1時間かかるのですが、それが5つたまっています」と具体的に示されれば、その事態の深刻さは共有される。
「風通しが悪くて」というのは、官僚的な組織でよく聞かれる表現だが、そういう人に「具体的な事実として、どんなことがあったのか」と問うと、「いやぁ、そう言われても困りましたねえ」と逃げてしまう。業務の検討をするのに、こうした感覚表現、情緒言葉が許されていたら、改善革新の話し合いはまず不可能である。「かなりできているんじゃないですか」「前よりだいぶよくなりましたねえ」と判断基準も尺度もない、個人的印象ですべてが流れてしまう。
こういう組織で、「業務改善の徹底」などと運動をしても、業務とは何か、改善とはどういうことかを誰一人考えてはいないのだから、進むわけがない。アセスメントの第一歩は言葉の具体化、明確化なのである。
③知識・理解・応用
テスト
物事は、「それがなにか」を知ることからスタートする。そのことに関する知識を持ち、そのことが何なのかを理解しなければならない。この「知り、分かる」ということは、「記号、用語、具体的な事実についての意味がわかっており、それを説明できる能力」である。言い換えれば、「定義する、区別する、思い出す、認める、例を挙げる、並べ替える…」ことができることを意味する。「知り、分かる」ことの次にくるのが応用である。これは、そのことを他人に分かるように説明し、あるいは自分で実際にそれを実践することができるということである。 この「知識・理解・応用」をビジネスにあてはめれば、例えば求められる基本的なマナーとは何で、どのような種類があり、どのように具体的に実践されるのか、をやってみせたり、説明したりできることを意味する。
アセスメントも、最初はこの知識、理解、応用を把握するところからスタートする。このレベルの評価は一般的にはテストである。テストには真偽法、多肢選択法などがあるが、アセスメントの場合には「知っている・知らない」「理解している・していない」「応用できる・できない」など単純化した二項選択で十分である。
「お辞儀の会釈、普通礼、敬礼」について知っている、理解している、応用できる、という具合に見ていく。会釈という言葉を知っていれば「知識あり」だし、「会釈は頭の傾斜角度は15度、相手の顔を見ながら行い、『少々お待ちください』などの場合に用いる」と答えることができれば「理解している」ことになる。さらに、この動作や表情をやってみせることができれば「応用できる」ことになる。
診断的評価
何をどのくらい知っているのかが分からなければ、どういうことが欠けているのかわからない。だから、ぜひとも最初はテスト型アセスメントをお勧めする。テストの内容は業務や、言葉の定義、具体的表現、マナーなどから始める。テストの対象は組織であるが、メンバー個々人の「知識・理解・応用」をテストすれば、その組織のレベルはすぐ分かる。これは診断的評価とも呼ばれるが、例えば次のような項目が考えられる。
「主要な作業の標準について」「作業の改善方法について」「業務改善の手法について」「よく使う言葉…例えば指示、報告、管理、意思決定…などの具体的意味について」「基本的なマナーについて」「話し合いのルールについて」…。
これらの項目について、社員個々人に①知っている、②理解している、③応用できる、ということをテストする。知識と理解については選択式で行うが、③の応用については実際にやってみせる、人に説明する、文章に書いてみる、などでレベルを判断する。
④内容により異なる教育法
技能の教育
初級のアセスメントでは、まず知識の有無からスタートするのだが、そのためには教育が必要である。だが会社にいる先輩や上司は必ずしも教育の専門家ではない。「社員の教育はどのようにされているか」と尋ねると、「うちはOJT中心でやっています」という答えが返ってくる。そこで重ねて、「どのような教育方法を用いているか」と問うと、答えに窮してしまう。
教育には、その内容に応じて適した方法がある。その方法を用いなければ、効果はあまり上がらないものである。OJTと言っている方々の多くは、教育の内容を日常業務で用いる「技能」と考えているものと思える。技能の教育は、①学習すべき内容を示す ②正しい作業を示す ③初級の動作を口頭で言わせる ④実際にやらせてみる ⑤適度な課題を与え、やらせてみる ⑥一括して教えずに、分割して教え、あとでつなぐ ⑦動作の正否、適否と成果の関係を理解させる ⑧動作を自己評価できるよう導く といった方法で行う。こうした方法を知らないと、最初から不可能な課題を与えて意欲をなくさせてしまう。
思考の教育
教育すべきテーマは技能ばかりではない。その他にも、事実、概念、問題解決、想像力、態度(価値観)、人間形成などがある。特に思考力をつけるために重要なのが「事実」の教育であるが、これは、一連の事実のつながりを理解しやすい順序に配列し、一回ごとの学習に適した単位に分割することからはじめる。そして最初に読んだり、聞いたりする「内容」に対して的確な反応を示すように誘導する。例えば、「憶測や感情で物事を判断することの危険性」などから入る。次にその正しい反応を強化(同意、評価、激励)する。そうして事実を確実につかめるようになるまで、復習させる。それができてきたら、自身の反応や進歩を自己評価させる。
「概念」の教育も同様に、まず教える内容を無理のない順序に配列することから着手する。それを具体的な事実に当てはめて考えさせ、その「概念」について正確で簡潔な意味づけを行う。それから応用問題を与え、その「概念」の適用の仕方を学ばせる。最後に一連の「概念」が適切なものかどうか、自ら評価させる。
「問題解決」ならば、問題状況の全体的把握をさせ、解決すべき問題を浮き彫りにさせる。次に問題を限定して、それを正確に記述できるようにする。そして、その問題解決に必要な情報、方法、知識を発見させる。ここまでできたら、問題解決のステップを教える。ようやく現原対変(現状・原因・対策・変革)や、ロジックツリーなどの出番である。こうして独力で状況分析→問題定義→対策比較→潜在問題検討というステップ全体をできるようにする。
⑤アセスメントの思考法
事実をならべる
アセスメントとは見直すこと、振り返ることだから、それ自体が「考える」ことである。そこでアセスメントをするためには、考える方法、仕方を持っていなければならない。ビジネスのような人間集団のことについて考える場合、その集団の傾向や特徴を観察するという方法がある。
例えば残業が慢性化している職場を観察してみると、次のような傾向がある。
「残業を前提として、いつもダラダラ仕事をしている」「ムリな計画の下に仕事のスケジュールを組んでいる」「未熟なため、ミスややり直しが多く、仕事が停滞する」「終業間際に上司から指示がだされる」「上司が帰らないので、部下も帰れない」「無意味な会議が多く、それが長い」「顧客からの変更、やり直しが多い」「午後になってから本気で仕事をする習慣になっている」
整理してみると、管理者に起因することが多いことがわかる。管理者が計画をちゃんと立て、終業間際に指示を出さず、自分も残業する習慣を無くし、朝から本気でやるような職場の雰囲気をつくればだいぶ違ってくる。だいたいこうした職場の管理者は残業を美徳あるいは必要悪のように思っている。だから、こういう職場では残業はなくならないのである。
メンタルモデル
そもそもビジネス上の問題はいくつもの事実が複合しているので、漠然と考えていても先に行けない。紹介した残業の分析もいくつかにわけたように、影響を与えている事実に分けることが必要である。次に「目標が達成できない」という問題を要因に分けてみよう。
「目標がそもそも高すぎる」「市場環境が悪すぎる」「部下の動きが悪い」「業務の進め方が悪い」「十分なカネがない」「不測の事態が生じた」
こうして整理してみると、「不測の事態」を除いて、目標そのものが高すぎることがわかる。こういう会社では、目標を必ず達成するものとしてではなく、努力目標とかストレッチ目標のように考えている。達成できなくても当たり前なのだから、達成できるわけがないのである。
「そういうものだ」と思い込んでいるもの~メンタル・モデルがビジネス成功の最大の障害だが、これが簡単にはわからない。この例のように、そこにある事実を列挙してみて、それらに共通しているもの、背後にあるものに目を向けるのが、アセスメントの思考法である。
⑥フレームワークを持つ
考えるとは
料理をつくるには調理用具が必要だし、家を建てるには大工道具がなければならない。経営をする場合も同じことで、私たちはなにか考える道具を持たなければ、経営について考えることができない。この考える道具に相当するものを「フレームワーク」という。古くは三井高利の「算用・始末・才覚」というのも、マーケティングの4P(プロダクト。プライス、プレイス、プロモーション)も、経営資源の「ヒト・モノ・カネ」も、マネジメント・サイクルのPDCAもみな考えるためのフレームワークである。
フレームワークを持っていない人の意見は漠然としてあいまいである。主張の根拠がはっきりしないし、論理的な筋道がないので、何を言っているのかよくわからない。「風通しが悪い」「話にならない」などという感覚表現や「まぁ、できているほう」「そこそこやっている」という印象表現などの羅列になってしまう。
こういう人同士だと、各人に思考フレームワークもないし、対話のフレームワークも共有されていないから、散漫で無目的な話し合いになってしまう。これではアセスメントどころではない。
フレームワークを持つ
アセスメントとは自社の経営について見直し、洞察を深めて、自己学習をすることだから、何らかの思考のフレームワークを持っていないと不可能だ。また効果的な話し合いをするためには、対話のフレームワークをメンバーで共有していることが必要である。
何について考える場合でも、フレームワークを持っていないと、意味のある考え方はできない。雑然とした印象や、妬みや愚痴は語れるだろうが、対象について整理をしたり分析することは無理である。
問題を発生型、探索型、達成型にわける。状況整理→問題定義→対策比較の順に検討する、というのは問題解決の初歩的フレームワークである。こうしたことを知らずに問題解決の話し合いをしても、何の結果も得られない。顧客理解プロセスを検討する際に、機能的ニーズと情緒的ニーズ、必需的ニーズと魅力的ニーズの違いを知らなければ、ニーズ分類そのものをすることができない。衛生要因と促進要因の違いや課題志向・人間関係志向の意味を知らなければ、リーダーシップの検討はできない。
そういうわけで、フレームワークを持たずにアセスメントすることはできない。経営品質アセスメント基準でも、カテゴリーごとに何らかのフレームワークを用いることを前提としている。初めてのアセスメントでは、カテゴリーごとにメンバーがどのようなフレームワークを共有しているかということ自体を診断することが必要である。そうでないと、何をどう考えればいいのか分からずに、無駄な時間を過ごすことになる。
⑦話し合い能力
話し合いの種類
誰でも話し合うことはできるつもりでいる。だが、誰でもができるのは単なる会話であって、世間話、雑談の類である。これは英語でいうカンバセーションで、上手下手はあるけれど、確かに誰でもできる。
審議会などになると、専門知識や検討の方法論を持っている人でないと話し合うことができない。これは討論・討議で、英語のディスカッションである。
ディスカッションよりも争点を絞って、対立的に互いの主張をしあうものをディベートという。これを日本語でいえば、論争や対決というニュアンスになる。冷静なディベートなら、相当に深い見識がなければできないが、感情的な対立なら一種の喧嘩だから、子供でもできる。
研究者同士やプランナーとデザイナーが思考を深めるため、テーマを掘り下げるためにはダイアローグというやり方が必要になる。これは話し合いの目的を「思考」や「学習」「創造」に置いて、お互いの脳を刺激し合うというものである。「意見交換」とか「対話」と訳されている。
ダイアローグ
初期のアセスメントで見極めたいのは、4つ目のダイアローグの能力である。ただおしゃべりをする会話、知識や自説を披瀝する討論、自己正当化の論争とは異なり、あくまでも思考を深めるために話し合うのである。話し合いそのものが思考プロセスであるから、思考は自分ひとりのものでなく、共同作業になる。
正(テーゼ)→反(アンチテーゼ)→合(ジンテーゼ)と思考を掘り下げることを意味する弁証法の語源がダイアローグである。日ごろ用いている考え方とは異なる考え方を用いることによって思考を深めることができる。一方が演繹的に原理原則や理論を語り、もう片方が帰納的に多くの事象や事例を語る。そうすることによって互いの思考が抽象と具体を自在に行き来する。
より高度なアセスメントは組織の成熟度を見ようとするが、その成熟度とは組織がダイアローグをできているかどうかということなのである。
⑧コミュニケーションのアセスメント
話す・聴く
コミュニケーション能力をアセスメントする場合には、どのような要素を見ればよいだろうか。コミュニケーションというとすぐ思いつくのは「話し方」や「聴き方」である。これらは例えば、「相手にわかりやすい話し方をしているか」という設問を掲げて、「はい」、「いいえ」、「時々」などを選択するチェックシートで評価することができる。「話す内容が整理されているか」、「相手に理解しやすい言葉、表現を選んでいるか」、「一度にあれもこれも言おうとしていないか」などとチェック項目も割と簡単に考え出せる。「早口にならないように、ゆっくり話しているか」、「あらかじめイメージしてから話しているか」なども重要な視点である。
「聴き方」の場合にも、「相手を受け入れるような姿勢、態度をとっているか」、「効果的に相づちをうっているか」、「相手の話にうなずいているか」、「笑顔を絶やさないか」「確認のための質問をしているか」など、こちらもチェック項目はわかりやすい。
意識
コミュニケーションの能力は「話す・聴く」だけではない。自分の役割や立場、使命や責任をよくわかっている人は、コミュニケーションのとり方も目的を考えた効果的な方法をとろうとする。だが、役割認識が希薄な人はコミュニケーションのための雰囲気づくりに配慮できないし、意見や主張もあいまいである。他の人の意見に対する反応も、「いやー、おっしゃるとおりです」、「同感ですね」などと迎合的で、お追従ばかりである。
この役割や使命・責任などの認識度を自己概念という。こちらのアセスメントは「何事も目的から説明している」、「依頼や指示は目的、内容、方法を明示している」、「自分の長所・欠点を知っており、隠さない」、「言い訳や弁解はしない」、「決め付け・自己正当化をしない」「こじつけやつじつまあわせをしない」「意見や主張はあいまいでなく具体的である」などと日ごろの姿勢、行動のチェックシートにする。
チェックシートの使い方には、自己評価、他者評価があるが、コミュニケーション能力の場合には他者による評価と、当人に対するフィードバックが欠かせない。さらにチームのコミュニケーション能力を高めるためには、メンバーの自己評価と他者評価を比較し、評価差がどこにあるか、どの程度の差があるのかを検討することが有効である。
⑨能力のアセスメント
業務能力
複雑な全体を扱いやすい部分にわけていく思考法を分析という。例えば業務は作業にわけることができ、作業は動作に、動作は動素(手を伸ばす、下げる、握るなど)に分解することができる。
能力のアセスメントで最初にやることは、この業務能力の診断である。生産現場では、例えば道具を正しく使えるか、機械の操作を手順どおりにできるか、正常と異常の違いを判断できるかといったことである。同じことを事務の現場に例えれば、受注・請求手続きが正確にできるか、購買から発注、支払手続きが手順どおりにできるかということになる。
この業務能力は、飲み込みの早さや注意力の多少によって、習得に差があるし、丁寧か粗雑かによっても違いが出る。だがこの能力にバラつきがあると、職場全体の業務の流れは極端に悪化するので、ミス、遅れ、忘れ、手抜きなどのボトルネックは集中的に改善指導をする必要がある。業務能力は時間をかけて練習(訓練)すれば、やがては誰でもできるようになるものである。
課題達成能力
しかし業務だけでは組織の成果は上がらない。もうひとつ必要なのが課題達成能力のアセスメントである。課題達成というのは僅か4文字だが、これを行うためには、課題を発見する、その課題の実態を解明する、現状とのギャップを明らかにする、ギャップ克服の手順をつくる、それを実践し、成果を評価する、という知的なプロセスが必要になる。
業務の場合には、事故やミスなどという弱点やボトルネックを把握しやすい。こちらは問題の発生に対応すれば良いのである。だが課題のほうは問題意識を持たなければ、何を見ても「別に問題ない」としか感じない。理想を描いたり、目標を掲げることによって、はじめて課題を認識するようになる。あるいはリスク対応や開発といった抽象的なテーマを自らに課すことによって、はじめて考え始める。
業務能力は対物的なものが多く、対人でも表面的で簡単なものが多いのだが、課題達成のほうは、人々の認識を高め、動機づけをするといった高度な対人影響力を必要とする。上から目線であるべき論を語るのではなく、組織の状況をよく把握して、効果的なアプローチを自ら創造しなければならない。
この能力のアセスメントは知っていることではなく、やっていることに焦点を当てることが必要である。どのような課題達成をしてきたか、現在どういう課題達成に取り組んでいるか、といったことを振り返り、その方法と成果を評価するのである。
⑩意識のアセスメント
信用と誠実さ
アセスメントする対象は知識・理解・応用という知的な能力だけに限らない。人との約束事を守る、他者に配慮する、相手の都合や事情をそんたくする、誠実な対応をする、など「人間性」は知識の有無や多少以上に人間関係に影響を与える。約束したことを、事情が変わったからやむをえないなどと反故にしてしまう人、どのような事情であれ期日を守れないような人は、ビジネスの世界では信用されない。
知識がない、能力が不足していることも問題であるが、人から「不信」を持たれるという事態は許されることではない。当人の怠慢や見識の無さによって、ひとたび信用や信頼を失ってしまえば、その敗者復活戦はあり得ない。ビジネス関係は信用・信頼で成り立っており、まともな人ならば、その点で厳しく人を選ぶはずである。だから、一度信用・信頼を破った人に仕事を頼むこと、協力を仰ぐことは正常なビジネス・パーソンならば二度としないだろう。
定義・基準・原則
信用・信頼など人間性に属するものは最も重要なものなのだが、これをアセスメントする場合には「意識」に焦点を当てる必要がある。「意識」の対象になる事柄は、責任感、役割認識、約束履行度、誠意や誠実さ、他者配慮、反応性や応答性、信用度や信頼性、倫理性や真実性などである。
これらについても知識・理解・応用のステップでセルフ・アセスメントすることはできる。しかし、「意識」は実際の行動によってのみ評価されることである。そこでこれらについては顧客による評価と同じように、職場内の同僚、上司や先輩、部下や後輩によって評価してもらうことによって客観性を保つことができる。
また自己評価の場合でも、例えば誠実さでいうと、「自身で誠実さをどう定義しているか」、「誠実さの基準をどう自己設定しているか」、「誠実な行動のためにどのような原則をつくっているか」というような、定義、基準、原則を問いかけ、それに文章での答えを求める方法が効果的である。人間性の面でいい加減な人というのは、そのことの大切さ、重要性を認識していないので、こうした設問にはほとんど答えることができない。誠実さばかりでなく、意識面での定義、基準、原則は真剣にそのことを真剣に考えている人でなければ答えられるものではないので、明快で具体的な回答者は高レベルだと判断することができるのである。


