①CSプロセス革新とは
□CS
CS(顧客満足)の高い会社と低い会社がある。あるいは、CSのレベルがいつも一定に保たれている企業と、時によって担当者によって大きくばらついてしまう企業がある。このような違いは、直接的には業務プロセスの差によって生じる。だが、その業務プロセスは、業務品質を一定のレベルに保とうとする管理プロセスによって導かれる。さらに、その管理プロセスは、製品やサービス、あるいは提供する情報や知識をどのように同業他社と差別化するかということを掘り下げる戦略プロセスによって位置づけられる。
これが業務→管理→戦略というプロセスの次元を上がっていく思考法である。このそれぞれの次元には、それを実践する人々の人間的側面が伴う。例えば業務プロセスが安定している会社では、現場のチームワークやコミュニケーションを健全に保つようなチーム・マネジメント・プロセスがある。これによって業務の改善や効率化などのブラッシュアップが可能となっている。
次の管理プロセスが優れた組織では、皆で協力し目指す目標~ウェイ(行き方)についていつも熱っぽく語りあう。仕事を担当者ごとに割り振り、各人が責任を果たせばいいのだという考え方ではないのである。様々な人々が、協力して努力するためには、目指す目標がどうしても必要である。目標というのは、バラバラになりがちな組織を一つの方向にまとめる。そして、この目標を描く、具体的にイメージすることによって、そこに至るプロセスも具体的になっていく。
□組織開発
最上位の戦略プロセスに伴う人間的側面は、戦略それ自体のついての考え方が関係してくる。戦略はトップやゼネラル・スタッフが計画立案するものだと考えれば、焦点は「計画」や「組織化」になる。どのように計画するかということが重視されるのである。だが、戦略を研究、開発、製造、販売、サービスなど様々な現場で創発されるのだと考えれば、そういうことが起こりやすい、生まれる可能性の高い組織をつくることが重要になる。
日本のディズニーランド内のレストランでのことである。若い夫婦が自分の料理とは別に「お子様ランチ」の注文をくださる。そこには大人二人の姿しか見えないから、ウェイトレスは思わず「はっ」と問い返す。「私たちには子どもがひとりいました、いつもディズニーランドに連れてきて、ここのお子様ランチが大好きでした。その子を交通事故で無くしてしまったので、今日は偲んできています。ですから、お子様ランチお願いします。」
注文をとったウェイトレスは、子ども用の小さな椅子をご夫婦の間に入れてさしあげたという。このことにご夫婦は大変感謝され、長文の感謝状を送られた、と10数年前に同社の幹部の方から伺ったことがある。
同社のビジョンであるファミリー・エンターテイメントから導かれる思い出づくり。この気持ちがあるから、ウェイトレスは子ども用椅子を持ってきたのだろう。この話を始めて伺った時には、創発(子ども用椅子)とそれを誘導する文脈やコンセプト(ファミリー・エンターテイメントや思い出づくり)の見事な組み合わせだな、としばし呆然としてしまった。
②CSとは目標文脈である
□管理の時代
経営の研究は、最初は作業の手順やその時間の研究からはじまった。次にその作業を業務としてどのように計画し、管理することが効率的かという見方になる。標準化・単純化・専門化からPDC(プラン・ドゥ・チェック)というマネジメント・サイクルの流れがそれである。
作業や業務をいかに効率的に管理するかということになれば、企業規模や業種の違いはあまりない。大企業でも小企業でも、レンガ積みの仕方、伝票発行の仕方は同じだから、管理の仕方はどこでも同じである。きちんと計画を立てて、その通り実行して、計画と実行との差異を把握して、その差異を無くすように改善する。
のんびりした時代、市場が伸びている時代には、こうした「管理」をまじめにやっていれば、それなりに企業は成長した。だが、変化のスピードがあがり、成長が停滞したり、市場が縮小するような時代になると、そうはいかない。「管理」だけをいくらまじめにやっても、競争相手が魅力的な製品やサービスを売り出せば、陳腐な製品・サービスの会社は負けてしまう。
□経営の時代
「管理」には変化や競争、顧客の視点がない。とにかく対象は業務であり、方法は標準化でありPDCAなのである。だから、「管理」のやり方をいくら洗練させたり、体系化を試みても、次元の異なる「経営」にはならない。システムの目的は、そのシステムをサブとする上位システムにあるものだから、管理レベルをどれだけ検討しても、経営目的はわからない。
そこで、「経営」とは何かということになるが、この答えが「目標とプロセス」なのである。この目標のさらに奥には、企業の目的があるが、これは顧客の創造なのである。どのような顧客をどのように創造していくのか、ということが「経営」の基本命題であって、それを実現していく中心的なプロセスがマーケティングとイノベーションである。こうしたことを明確に整理したのがドラッカー教授の名著「現代の経営」である。
当時はまだ「管理一辺倒」の時代だから、目標管理と訳されてしまったが、これはやはり「目標とその話し合いによる経営」なのである。この目標こそは、どのような顧客に、どのような価値を提供していくのかという、自社の物語りであり存在理由であり、さらにはどのような仕事をすればよいのかという文脈(コンテクスト)のことなのである。
したがって、ディズニーはファミリー・エンターテイメント、マクドナルドはS(スマイル)、Q(クィックリー)、C(クリーンリネス)という自社独自の価値文脈を持ち、日々その実現のために努力し、改善し、革新しているのである。
CS=顧客満足とは、この物語り、文脈から導かれるものである。つまりその会社独特の価値の体系なのである。企業文化や独自能力、あるいはブランドと共通するものであって、例え同業者であっても、提供する顧客満足は異なる。いや、異なっていなければ存在理由がなくなってしまう。こう考えると、「顧客満足度第一位」などという表現は、業界横並びを前提とした、無意味なものであることがわかる。
③CSの具体化と実践
□価値を決める
顧客満足は、顧客に提供する「価値」を明らかにするところから始める。ディズニーのように「ファミリー・エンターテイメント」という価値前提があれば、そこから「思い出づくり」という具体的な行動が導かれてくる。例えば日本旅館で、心温まる丁寧なサービスを価値前提とするならば、顧客に対する「親密なコミュニケーション」という行動を導くことができる。そして、この「親密なコミュニケーション」をフロントは、女将は、仲居さんは、板前さんはと、それぞれの担当における行動へと具体化させていく。
「価値前提」→「全社での具体的行動」→「担当者の行動」というのが、顧客満足の徹底や向上の進め方なのである。
□価値前提
効率の追求のために「ハウ(どうするか)」を検討するのが伝統的な改善であるのに対して、「ホワット(なにをするか)」を選択するのが革新である。顧客満足は提供する価値を選択することだから、それ自体が経営革新という意味をもつ。
普通の企業は業界常識に従い、横並びで同じ品ぞろえ、価格、販売方法をとっている。こうした業界常識、一般通念、平均思考を事実前提というが、これだと自社の特徴も魅力も出てこない。それに対して、同業とは異なった自社独自の提供価値が価値前提なのである。
ある酒販店は「親密さ」を価値前提として、「市内で最も愛想の良い店」を家族全員で実践している。また、ある牛乳販売店は「地場の高齢者の友達」という価値前提で、拡張員(営業員)が「親切な雑談」をゆったりとしている。いずれも成果は上々と聞く。
□競争優位
価値の検討は次のように行う。第一に、機能的価値と情緒的価値をリストアップする。機能的価値というのは時間、面積、距離、重量、容量など、何らかの尺度で測ることができるものである。一方の情緒的価値は、面白さ、楽しさ、嬉しさ、親切さ、癒し、くつろぎなど、精神的・気分的なものである。
次にこのリストを、必需的価値と魅力的価値に分類する。必需的価値とは、それが欠けていたり、出来が悪ければ、苦情の原因となるような当たり前のものを意味する。一方の魅力的価値のほうは、なくても困ることはないけれど、顧客にとって「あるとうれしい、助かる、気分いい、ありがたい」というものである。
最初の価値リストのどれが必需で、どれが魅力なのかを分類する。そして必需的価値は顧客不満に結びつくものだから、絶対にクリアさせるようにする。魅力的価値は、評判をつくる、話題になる、信頼性のもとになるものであり、低くても苦情にはならないが、魅力に乏しくなる。こちらは顧客満足に直結するので、いつでもだれでもが実践できるように浸透させていく。あとは、これらを磨きあげていけば、CSで評判の会社になる。


